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意味もなくその場にしゃがみ込み、虚空に向けて呟く。
「……断酒はさあ、やっぱり意味、なかったよね」
なんせ彼はすでにほどよく痩せていて、運動もしっかりこなしていたから、とくに減量の必要はないと思っていた。
『でもさ、芝居のためにできる限りのことをやりたいんだよね』
その熱意に押し負けて、じゃあ私も断酒をするから一緒に頑張ろうかなんて、エールを送った気がする。
彼は笑っていた。
『なんでお姉さんも断酒すんの』
『じゃあ、クランクアップしたら、一番に俺と飲んでね』
おかしそうに指摘しながらも、子どもみたいに私の目の前に小指を差し出して、流星の煌めきのように輝かしく笑っていた。
「クランクアップしてないけど、……別にいいよね」
目的を失くした人は、どうなってしまうのだろう。星を見失ったら、どうやって歩き出すのだろう。
薄汚れた空には流星のような煌めきなんて、当然どこにも浮かんでいない。
薄っぺらい爪先で引っ掻いても、プルタブはちっとも動いてくれなくて、とうとう途方に暮れてしまった。
「一緒に飲もうって、星くんが言ったのに」
『お姉さん、爪よわ~!? 貸して! 俺が開けてあげる』
「星くんがいないと……、開かないのに」
――じゃあ、開けてもらえるところに行けばいいんだ。
呟きながら、ぼろぼろとこぼれ出てくる涙を拭うことも忘れて車道へと視線を向ける。
ただ、見ているだけのつもりだった。
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