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飛び降り自殺を考えようと思っても、まず無理だ。いや、窓から身を乗り出せばどこでもできるのかもしれないが、この高さから落ちても死ぬことはないはずだ。
『二階はあまり高くはないので景色は微妙かもしれませんが、人が入ってこられる高さではありませんので、防犯の面は問題ないかと』
「あ、そうですね。それは助かります」
まさか、飛び降り自殺が決行できるかどうかを確かめていたとは言えず、曖昧に笑って空を見上げた。
『ほかに説明を聞きたいところはありますか?』
「いえ、とくには。ただもう少し一人で見て回っても大丈夫ですか?」
『はい。もちろんです。気になることがありましたら、ぜひまたお電話ください。鍵の返却は三時間以内で結構ですので、遅れる場合のみ改めてご連絡をお願いいたします』
流れるような説明に相槌を打って、静かに通話を切った。
途端にあたり一面が静寂に包まれる。
泣きじゃくる水野愛子をどうにか泣き止ませて現場に送り届けてから改めて相原に状況を報告し、軽く事務処理を済ませて半日の有休を取得した。
『あれ。花宮、もしかして結婚記念日とか?』
『え? なんでですか?』
『花宮が休み取んの珍しいからね。星大和の関係かと思って』
当たらずとも遠からずの推理に苦笑しつつ、特に答えを渡すつもりもなくその場を立ち上がった。
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