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『あんまり大きな声で名前出さないでください』 『ありゃ。照れてんの』 『照れてはないです』 『星大和にその顔写メって送りつけてやろうか?』 『写メって、古い! しかも送りつける先、知らないじゃないですか』  出て行こうとしているのに、相原はにやにやと口元をだらしなく緩めながら、こちらを見上げている。その口から語られた言葉を思い返して、クッションフローリングの床に座り込んだ。 『あれ。言ってなかったっけ? 俺、連絡先教えてもらってるよ。――嫁に何かあったら連絡ください。いつでも行きますって、渡されてんのよ』 『え?』 『愛だよねえ。花宮のこと、大好きすぎでしょ』 「……そんなの、聞いてないよ」  ぽつりと呟いて、ため息を吐く。  仕事に復帰するつもりだと打ち明けた日、大和は考える間もなく「いいんじゃね」と言っていた。 『即答だ』 『はは、じゃあ、俺が嫌だからやめとけっつって、やめてくれんの?』 『やめ、ない』 『うん、やりたいならやってみればいいよ。それでやっぱ無理って思うんなら、その時考えればいい』  私の言葉を聞いて、大和はわざわざご飯を食べる手を止めてくれていた。私の目を見て真っ直ぐに答えてくれる。  大和の言葉に真剣に頷いたら、彼は柔らかく唇の端を持ち上げて、私の頬を撫でた。
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