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『でも晶が仕事中、無理しすぎてないか確認できないの、まずいな。なんかあったらすぐ連絡してこいよ?』 『ふは、まずくはないし、何もないって』 『そ? じゃあ無事帰ってくるなら許可する』 『労働許可制なんだ』 『そう。嫁が無理しすぎないか見張ってんのが俺のささやかな趣味なんで』  茶化すように笑って言っていた。美しい過去を思い出して、一人の部屋に倒れ込む。 「秘密ばっかりだね」  大和はいつだって私のために嘘を吐く。私はその嘘に気がつくのが遅くて、気づいた時にはもう、たくさんの苦労を強いている。  誰よりも忙しいだろうに、どのようなときにも私を優先しようとする。  仕事を再開して三ヶ月が経ったころ、所属タレントの風邪をもらって高熱を出したことがあった。  事務処理だけでも終わらせようとデスクに座っていたのに、相原に命じられて通常よりも早くに退勤することになった。  何か胃に入れられるものを買って帰らなければと思いながらも全てが億劫で、どうせ大和は深夜まで帰らない日だと知っていたから、何も食べずに寝るだけ寝てしまおうと思っていたことを覚えている。
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