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『あ、れ? 大和?』
玄関を開けた途端、今から家を出ようとしているらしい大和と鉢合わせて、目を丸くした。
『あれ? お仕事、は?』
『ああ、うん。リスケになって帰ってきたとこ。つかひかり、具合悪いだろ』
『あ、え? そんなことない』
つい癖で嘘を吐いたら、当然のように大和が私の額に手を当てて眉を下げた。その表情にしどろもどろになりながら言い訳をする。
『仕事、のせい、じゃない』
言いたいことや聞きたいことは他にたくさんあった。
大和は家を出ようとしていたはずなのに、なぜか私をベッドの上へと導いて、自分もベッド脇に腰掛けているし、サイドテーブルにはなぜかゼリーやスポーツドリンクが入ったレジ袋があった。
その様子はまるで、今から誰かを看病しようとしているかのようだ。
それなのに、私は全ての違和感に気付かずに、大和に甘えていた。
『わかってるよ。別に怒ってない』
『ほんとう?』
『うん。しっかり食って、寝て、薬飲んで、熱下がったらまた仕事したらいいじゃん』
『わかっ、た。大和、お仕事は?』
『うん。俺は今日はもうオフだから、心配しなくていい』
『そ、っか。じゃあ、いってらっしゃいしなくて、いいね』
こぼれ落ちた本音に、大和は何も言わずに私の頭を撫でて額に口付けた。
『おやすみ、ひかり』
あの日も大和は、嘘を吐いていたのだろう。
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