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 美しい思い出ばかりが胸に残る。  大和があんまりにも優しいから、勘違いをしてしまいそうで怖かった。まるで自分が大和の人生にとって必要な人間であるかのように錯覚して、いつまでもしがみついてしまうのが恐ろしい。  そばにいてはいけない理由はたくさんあるのに、そばにいるべき理由なんて一つもなくて、何度指折り数えても、自分の望む答えにはならなかった。  今日、私よりも先に家に帰ってきて、何を作るつもりでいるのだろう。人に与えられた分だけ返そうとする律儀な人だ。  大和の支えになれるよう彼の身の回りのことに尽力していれば、彼の隣に存在意義があるような気がしていた。  けれどそれはただの思い込みだ。 「大和はなんでもできるもんね」  大和は精神を壊した私を引き取って、あの部屋で私の身の回りのことをすべて整理してくれている。その間私はずっと大和に甘えっぱなしだったのだから、本当はすべてをそつなくこなすことができるのだ。 『お、ひかり飯作ってくれたの? すげえ嬉しい』 『買い物行ってくれたんだ? めちゃくちゃ助かるけど……変なやつとかに声かけられなかった?』 『部屋ピカピカじゃん、ひかりは天才だな?』 「うそばっかり」  何もない寂しい部屋で呟いても、誰かが答えてくれるはずもない。これからずっと、私が死ぬまでずっと、誰も答えてくれないだろう。
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