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 それが一人で生きるということだ。理解しているのに、どうしてこんなに悲しい。私の心はいつの間にか、二人に慣れてしまった。  今も私の瞼の裏に、平気で嘘を吐く大和の笑顔が残っている。彼はどのような時にも顔をくしゃくしゃにして楽しそうに笑っていた。 「きっと、全部が嘘だったわけじゃないんだよね?」  あの時の大和の笑顔は、きっと作り物ではなかったはずだ。そうだと信じていたい。  亡くなった弟の元マネージャーが目の前で自殺未遂をしているのを見て、大和は自分の人生をなげうってまで、私の手を握ってくれた。  私の心を治すために、心血を注いでくれていた。そのすべてが偽りだったとは思わない。  大和はいつも私が何かを成し遂げれば自分のことのように喜んで、うまくいかなければ、何よりも大切なものを傷つけられたみたいに胸を痛めて苦しそうにしていた。 「優しいなあ」  その優しさの中で、私はもう一度心を取り戻した。自分の足で立って、自分の頭で考えて、判断ができる。  全ては順調で、上手くいきすぎて、私はもうとっくに一人でも平気になってしまった。  ――本当に?  この寂しい部屋で、一人で生きていく。以前は平気でそうしていたはずなのに、これほどまでに胸が苦しい理由を、私は誰にも打ち明けてはいけない。  けれどこの冷たくて寂しい部屋には、ただ一人、私しかいないから。 「やさしい、なあ。すき、だなあ。かっこいいもんなあ」
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