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「お姉さん、死ぬ気なの?」
声をかけられて初めて、現実に引き戻された。
考え込み始めてからどれくらいの時間が経っていたのかわからない。ただ誰かに腕を掴まれて、車道に踏み入れかけていた足を引き戻された。
「あ、え……」
「危ないと思うけど」
「――え?」
すぐ近くで聞こえる声に思わず目を見張った。振り返って、言葉が出なくなる。
まさか。そんなはずがない。
「大丈夫?」
「……星、くん?」
私が問いかける声はかすれていた。
信じがたいことが起きて、ただ呆然としている。
彼は私が瞠目して唇を震わせても、特に気にすることなく首をかしげていた。
「うん。なに?」
まるで夜のロードワーク中のような格好だ。惜しげもなく顔をさらけ出しているところがあまりにも彼らしくて、心がうまくまとまらない。
濃いまつ毛に覆われた瞳が美しい。彼はこれほどまでに美しいのに、いつもどうしてか、自身の美にはあまり興味がない。
そういうところにほとほと呆れながら、誰よりも慈しんでいた。
「……ぇ? な、んで? 星くん?」
どうして生きているの。
瞬時に頭に浮かんだ残酷で決して口には出したくない言葉を告げることができず、濡れた頬を拭われると、ますます涙があふれ出てきた。
当たり前のように指先から伝わってくる熱に、心が震える。
三日前の明朝、星くんは死んだ。私のせいでなくなってしまった。
「え……? だって、星くん、は、もう」
そのはずが、どうしてか彼は私の目の前に立っている。
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