8

10/31
前へ
/317ページ
次へ
「私こそ、うそばっかりだ」  これほどまでに魅力的な人にたいして、私はいつも口をつぐんで、本当の気持ちを隠し続けてきた。  薬を飲んでいるなんて嘘だ。減薬に成功して、今はお守り程度に持っているだけだ。  出張先で電話に出られないのも嘘だ。本当はいつも孤独で、電話が鳴れば泣きたくなるほど嬉しいのに、じっとディスプレイを見つめて胸に痛みを刻みつけている。  たくさんの嘘で大和を騙して、私はこの場所にしがみついている。  私なんて罪に焼かれてしまえばいい。そう思うのに、大和は私の嘘に気づいても決してそうはしないだろう。  決意が歪んでしまいそうで、携帯を取り出す。  大和があまりにも私の心を大切にしてくれるから、私は自分の罪を忘れないでいるために、わざと心に傷をつけるのが上手くなってしまった。  指先で星大和と打ち込み、検索をかける。 『悠翔くんを殺したの、星大和だったりして。悠翔くんのポジションが狙いでそうしたんじゃない? 実際奥さんは悠翔くんのマネさんなんでしょ? キモすぎる』 「ちがう、……ちがう、のに」  選んで傷つきにきたというのに、いつも新鮮に胸が抉られて苦しい。  星悠翔を殺したのは私だ。大和は関係ない。殺しておいて、自分勝手に心を病んで、通りすがりの大和に助けられただけだ。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1112人が本棚に入れています
本棚に追加