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『演技も三流だし。代用品の生活って何が面白いんだろうね』 『顔見るたび悠翔くんのこと思い出して悔しいから、もう出てこないで欲しい』 『弟殺しの犯罪者がテレビ出てんの意味不明すぎる。奥さんも騙されてるでしょ』  あんなに優しい人を、どうしてこんなふうに傷つけられるのだろう。  星大和は星悠翔の兄である前にただ一人の人間で、他人の心の機微にも敏感なほど、繊細な感性を持つ男性だ。  大和は大和でいい。私は星大和だから彼を愛するようになった。大和は星悠翔と同じように一つの人格を持った尊い人で、決して傷つけられていいはずがない。  それなのに、私がいることで大和はずっと星悠翔と比べられる理由を作ってしまう。 「私がいなくなった、ら……ちゃんと怒って、ね」  できるだろうか。大和は意外と寡黙な人のようだから、難しいのかもしれない。それでもきっと彼のマネージャーが尽力してくれるだろう。  私は大丈夫だ。きっと。  今は難しくても、どうしようにも忘れられなくとも、きっといつか、大丈夫になりたい。  大和にもらった輝かしい記憶を胸に抱いて、しっかりと歩んでいける。もう二度と命を投げ出そうとは思わない。  大和は教えてくれた。私の命の大切さを。何度も根気強く私と向き合って、私の心を作り直してくれた。  彼に与えられた全てを大切にするためにも、ここで蹲っていてはだめだ。  よろよろと立ち上がって、涙を拭った。 「帰ろう」  あとほんの少しの時間で、帰る場所ではなくなる居場所に。  終わりの前でも、ずっと笑っていたい。大和の記憶に残る最後の私が、私の記憶の中の彼と同じように、いつまでも彼を安心させられる存在であるために。  私から捧げられる愛は、たったそれだけだ。
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