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 せめて大和の好きな料理を作って驚かせようと思い立って、マンションの近所のスーパーで腕がちぎれてしまいそうなほど買い物をした。  彼はコロッケや唐揚げのようないかにも子どもが好きそうなものが好きで、イタリアンやフレンチのようなおしゃれな食べ物は、食べ方がよく分からないらしい。  見るからにおしゃれなものが好きそうで、食べているところも小慣れた感じがするのに、本人はそのように思っていないらしい。 『それにひかりの手料理のほうが好きだし』  ――思い出さなくていい言葉を思い出してしまった。  一人で苦笑しながら包丁を取り出し、食材を切る。昔から料理をするのが好きだった。父や母は人をよく褒める人たちだったから、私が何かをやって見せるたびに大袈裟に喜んでくれたからだ。  祖母も同じだ。私が何かをしようとすると、心配そうに後ろをそわそわと歩き回りながら、最後には手を叩いて喜んでくれた。  大和はその話がいっとう好きで、それを教えてから、暇さえあればキッチンで私の後ろに立つようになった。 『ひかり、手ぇ動くのはや』 『これくらい普通だよ』 『それなんて魚?』 『うーん……』
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