8

15/31
前へ
/317ページ
次へ
 あなたの瞼の裏に残る私が、どうかいつも、くしゃくしゃのみっともない顔で笑っていますように。  私にとって、大和との時間がかけがえのないものだったということが、いつか彼の胸に届くように。いつか彼がどうしようもなく傷つけられた時、その記憶が彼の心を守るちっぽけなお守りの一つになってくれるように。  願いを込めて、私は自分の心を隠すことなく大和と向き合うことに決めた。  胸の内で誓う私のことなど知らない大和は不思議そうに首を傾げてキッチンへと入ってくる。 「なんで黙んの?」 「うん?」 「いつもみたいに、ドラマのセリフ? って言わないんだ」  おどけた表情で私を見つめる大和に、もう苦笑してしまいそうになって飲み込んだ。何度もそうやって茶化してきたから、私の定番のセリフだと思われてしまっているらしい。  私の本当の気持ちは、そんな陳腐な言葉には収まらない。それを表現するのが難しくて黙り込むと、大和は私の答えを促すように優しく首を傾げた。 「ま、べつに言っても言わなくても俺のオリジナルだけどな?」 「ふは、じゃあいいや。ただちょっと照れただけ。もう可愛い歳でもないし」  正直に、できるだけ嘘なく告げて、食材を切ることだけに集中するふりをして視線を下げた。これまで言葉にすることを避けてきたからか、想いを口にするのが難しい。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1112人が本棚に入れています
本棚に追加