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「ひかりちゃん?」 「なに」 「肩震えてるけど」 「だって……本当に似合ってないんだもん、ふ、ふふ、ちょっと、おかしい」 「俺に似合わない服とかないだろ」  両腕を持ち上げてたくましい腕を見せつけてくる。フリルたっぷりのエプロンをかけてボディビルダーさながらのポーズをする大和はやっぱりおかしい。  いかにもガーリーなフリルエプロンと鍛えられたしなやかな筋肉はあまりにも親和性がない。大和の雄々しい表情を見てついに吹き出してしまった。  私が耐えられずにお腹を抱えると、大和はますます得意げにポーズをとって、主人に褒められるのを待つ可愛い愛犬のように私を見つめた。 「はは、大和にも似合わないものあったんだ」 「いや、似合ってるだろ」 「ええ? 鏡見た?」  やっぱり耐えられずに声をあげて笑ってしまう。涙が出そうなほど笑う私の前で、大和はわざとらしく渋々とエプロンを脱ぎ、私に差し出した。 「じゃあひかりが手本見せて」 「うん? 私に着ろと?」 「そう」 「これを?」 「ひかりセンセーはさぞ可愛く着こなすんだろうな?」  コロッケの下拵えはほとんど終わっていて、あとは衣をつけて揚げるだけだ。このタイミングでのエプロンにはあまり意味がなさそうだと思って見つめていると、大和は無言で私の首にエプロンをかけて後ろに回った。
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