1

15/16

817人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
 震える唇でつぶやきながら恐る恐る手を伸ばすと、星くんは困ったように眉を下げて私の手を掴んだ。 「ほ、しくん、だ」 「お姉さん、疲れてんでしょ。支離滅裂」 「ゆめ?」 「現実だよ」  いみが、意味がわからない。 「げんじつ」 「うん、現実」 「う、うう……っ、な、なん、なんで……っ」  安心させるように笑う彼に頭を撫でられて、ついに嗚咽が止まらなくなった。  星くんは、私が初めてスカウトして、ずっとマネジメントを担当していた俳優だった。  芝居を始めるにはあまりにも遅すぎると言われていながら、彼は持ち前の明るさと真面目さで毎日のレッスンやオーディションを受け続けて、私が予想していたよりもずっと早くにブレークした人だ。  天性の才能を持った人誑しで、真面目なのに少しだけ甘えたな部分がある可愛らしい男性だった。  でも、もうこの世にはいない。その輝きは失われてしまったのだ。――私のせいで。  星くんは多忙を極めるスケジュールで、マネージャーの私も、当然毎日欠かさず現場について回るようにしていた。  売れっ子をマネジメントするということは、マネージャーも極めてハードなスケジュールになるということだ。  彼の他にも私がマネジメントすべきタレントは三人在籍しており、私の健康を心配した星くんがついに『近場のスタジオなら自分の車で行けるから』と言い出した。  思えばその時、はっきりと断るべきだった。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

817人が本棚に入れています
本棚に追加