817人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
震える唇でつぶやきながら恐る恐る手を伸ばすと、星くんは困ったように眉を下げて私の手を掴んだ。
「ほ、しくん、だ」
「お姉さん、疲れてんでしょ。支離滅裂」
「ゆめ?」
「現実だよ」
いみが、意味がわからない。
「げんじつ」
「うん、現実」
「う、うう……っ、な、なん、なんで……っ」
安心させるように笑う彼に頭を撫でられて、ついに嗚咽が止まらなくなった。
星くんは、私が初めてスカウトして、ずっとマネジメントを担当していた俳優だった。
芝居を始めるにはあまりにも遅すぎると言われていながら、彼は持ち前の明るさと真面目さで毎日のレッスンやオーディションを受け続けて、私が予想していたよりもずっと早くにブレークした人だ。
天性の才能を持った人誑しで、真面目なのに少しだけ甘えたな部分がある可愛らしい男性だった。
でも、もうこの世にはいない。その輝きは失われてしまったのだ。――私のせいで。
星くんは多忙を極めるスケジュールで、マネージャーの私も、当然毎日欠かさず現場について回るようにしていた。
売れっ子をマネジメントするということは、マネージャーも極めてハードなスケジュールになるということだ。
彼の他にも私がマネジメントすべきタレントは三人在籍しており、私の健康を心配した星くんがついに『近場のスタジオなら自分の車で行けるから』と言い出した。
思えばその時、はっきりと断るべきだった。
最初のコメントを投稿しよう!