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「嫁の話以外の可能性ある?」  私の問いにたいして、彼はあっさりと答えを返してくる。その言葉が、私と彼の出会いの場面にはあまりにも似合っていなくて、またしても言葉を失ってしまった。  どう考えてもこれは嘘だ。大和はあの時、車道に飛び出そうとしていた怪しげな女に善意で声をかけただけだ。  そう確信しているのに、大和の表情を見ると自信がなくなって、混乱するまま口を開いた。 「……もしかしてこれ、可愛い女の子に、大和がすごくナンパをしまくっていた、みたいな話?」  理解の範疇を超えてたどたどしくなりながら言うと、大和はますます怪訝そうな顔をして私の頬をつねった。 「してねえわ。こんな仕事してて声かけてたらやばいだろ。……つうか晶以外にやる意味ないし」  さっきから意味のわからない問いかけを繰り返している自覚がある。自覚はあっても大和の言葉の意味がわからなくて、混乱する頭で、深く考える間もなく言葉を繰り出した。 「え? 大和って私の顔好きなの?」  頭の中を渦巻く言葉が外に出た瞬間、思わず閉口する。どう考えても自意識過剰すぎるワードだ。私の言葉を受けた大和が一瞬目を見張ったのが見えて、瞬時に視線を逸らした。  何も言わずに料理に戻ろうと体をキッチンテーブルに向けて菜箸へ手を伸ばす。  その手をあっけなく掴まれて止まった。 「それ、俺になんて答えてほしいの」
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