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 横から顔を覗き込むようにして言葉を吹き込まれる。艶やかな声色が耳殻に触れて、一気に体温があがった。 「やっぱいい、なし。……わすれて」  緊張で声がかすれる。囁くような小さな声で呟いても、すぐそばで私の声に耳を傾けていた大和にはしっかりと伝わったらしい。「ふぅん?」と言葉を返され、間髪をいれずに顎を掬い上げられた。 「やま、」 「好きだろ。すげえタイプ。もろドストライク。毎日見ても飽きないっつか、ひかりの顔がずっと見てたいから結婚したんだし。今も、ここでキスしたら嫌がられねえかなとか、普通に考えてるけど」  大和の目が熱い。どうしてそう思うのかわからないのに、この目に見つめられるとすべてを許してしまいたくなるから重症だ。  感触を楽しむように下唇をなぞられて、それに気を取られているうちに体を大和の方へと向き直される。  真っ向から色気を振りまかれると、耐性がないせいで心臓が異常な拍動を繰り返してしまう。  獰猛な目に囚われて、思わず顔を逸らしてしまった。 「きょ、きょう、なんかへん」 「ひかりもな」  ここまであからさまに近づいてこられたことがあっただろうか。混乱する頭の中で整理を試みても、ますますすべてが散らばるだけだ。
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