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 考えなしに言い放ったのに、大和は少し考えて服の中から手を引き抜いた。思案顔で私を眺め、三秒ほど間を置いてから口を開く。 「そのあとは?」  ここまで熱心に誘われることもない。最後にそういうことをしたのはいつだっただろうか。もう三ヶ月以上も前だ。一般的な夫婦ならもっと頻繁にこういうコミュニケーションがあるのだろうか。何一つわからない。  仕事ばかりに明け暮れてきた私はほとんど男女交際の経験がなくて、こういう触れ合いは、もっぱら大和の気分に任せっきりだ。  初めて大和に触れられたのは、私が仕事に復帰したいと伝えた頃だった。お風呂上がりに髪を乾かして大和がもらってきたオイルを塗っていたら、後ろから抱きしめられて耳元に声を吹き込まれた。 『触っていい?』 『……うん?』  もうすでに触っているのに、不思議な問いかけだなんて思った私はあまりにも経験値が足りなかったのだと思う。彼の手がパジャマの裾から侵入して、私の肌をなぞる。その手の熱さで、ようやく意味に気づいた。 『え、あ……、え、っと』 『俺に触られんの、嫌? 嫌ならやめとく』  ずるい聞き方だと思う。横から顔を覗き込まれて、何も言えずに唇を噛んだ。彼は私の顔を見て、困ったように笑う。
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