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『この聞き方、拒絶しづらい自覚はあるよ』 『じゃあ、なんで』 『断られたくないから。ひかり、頷いて』  私なんかが相手で、大和はそういうことができるのだろうか。散々混乱して、狼狽えて、それでも唆すように大和に深く口付けられると、拒絶しきれずに頷いた。  それから何度かそういうことを繰り返して、この場所に至る。大和はいつも丁寧に私に触れた。まるで今にも壊れてしまいそうな綺麗な宝石を愛でるように抱きしめられて、目を回しているうちに深いところまで近づかれる。  決して嫌悪感を覚えるようなものは何もなくて、ただ大和の熱に触れられるだけだ。  好意で胸が潰れてしまいそうになること以外は何も恐ろしくない。 「ひかり?」 「……うん?」  名前を呼ばれて、頭に浮かんでいた過去の記憶が霧散していく。 「嫌なら断っていいよ」  断っていいと言うのに、彼の手は服の上から私の腹を撫でている。あやしい手つきに目が眩んでしまいそうで、すぐにその手を握った。 「断っていいよって人の手じゃない」 「断ってもいいけど、断られないようにその気にさせようとすんのは俺の勝手だろ」 「ほんと、今日変だよ」 「素直になってるだけだけど」  大和にこうして誘われて、断ったことなど一度もない。それなのにこんなふうに熱心に言葉を尽くさなくてもいいと思う。
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