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この日の三日前、彼は自家用車でスタジオを目指す道の途中、飲酒運転により信号無視をしたドライバーと正面衝突し、二度と帰らぬ人となった。
私があの時、心配する星くんを押し切って送り迎えをちゃんとこなしていれば。過密なスケジュールを回避して、夜中の移動をキャンセルしていれば。そもそも彼をこの業界にスカウトしていなければ。
きっと彼は今日もどこかで、あどけない笑みを浮かべて健やかに過ごしていただろう。
――けれどその機会を私が奪ってしまった。
「……お、送ってあげられなくて、ご、ごめん。わ、わたし、星くんのマネージャー失格で……、私が、私が代わりに」
代わりに死ねばよかったのに。
口に出そうとしたその時、大きな手に口元を塞がれた。
「違うだろ」
大粒の涙がこぼれたせいで、視界に瑞々しく星くんが映る。
彼はただまっすぐに私を見つめていた。
柔和な印象の瞳を持つ星くんとはどこか違って見える。そう、思ったのに、うまく言葉にすることができなかった。
「ねえ、死のうとしてたんでしょ」
「そ、れは」
「……捨てるなら俺がもらってもいいよな?」
「……もらっていい?」
「うん。お姉さんの命、俺がもらうわ」
――何を言っているのか、全然わからない。
混乱する私の手を掴んで、彼は静かに笑った。私にはそれが明けの明星のような、眩しい光に見えた。
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