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 何でもできることは知っている。私がいなくても料理なんてできるだろうし、そもそもそのようなことはしなくとも問題ないくらい稼いでいることも知っている。  それなのに、生活水準を私に合わせてくれているだけだ。 「うし。頑張るか。終わったら優しいひかりちゃんが構ってくれるらしいし」  本当にずっと機嫌がいい。大和が不機嫌になるところなどほとんど見たこともないのに、彼が上機嫌で鼻歌を歌う姿を見ると胸が温かくなって思わず笑ってしまった。  終わりのその日まで、ずっとこんな穏やかな日が続いて欲しい。祈りながら笑みを浮かべると、大和は得意げに笑ってかすめるように私の唇にキスをした。 「そんなに好き?」 「うん、好き」  キスが好きかどうかを聞いたはずが、まっすぐに見つめながら言葉を返されて、まるで私への思いを告げられているように錯覚しそうだった。  苦笑して、いつものように胸を叩くと、大和はもう一度私の唇を食んだ。 「キス魔」 「慈悲深い嫁が許してくれたんでね」
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