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『髪、綺麗だし、伸ばせば? 短いのも似合うけど』  以前大和が何気なく言った言葉を抱きしめて丁寧に伸ばしていることが知れたら、彼は何というだろう。想像できなくて、笑ってしまった。 「なに笑ってんの」 「うわあ!?」  鏡越しに顔を見つめられて、思わずひっくり返りそうになった。大和は下着だけを身につけて、乱雑にタオルで髪を拭きながらその場に立っている。 「はや!?」 「いや、いつも通りだけど」  そうだろうか。いつもより念入りに髪を乾かしたから、時間の経過に気づかなかった。 「大和、ちゃんと拭いてきてって」 「あっちい」 「リビングの方が涼しいでしょ?」 「んー」  ドライヤーをかけていたこの部屋より、適温に設定されているリビングの方が涼しいに違いない。しかし彼は私の提案に頷くことなく私の目の前に立った。 「パジャマ着て。風邪引くよ?」 「……どうせ脱ぐじゃん」  囁きながら頬を撫でられて、返す言葉が浮かばなくなった。まるで、少し前までのやり取りを思い起こさせるように顎を優しく掬われて、視線を合わされる。 「思い出した?」 「忘れてない、けど」 「ふぅん? ならいいけど」  彼の手が私の髪をくるくると弄ぶ。その毛先に彼の髪からぽたりと水滴が落ちた。 「あ、ほら。早く乾かさなきゃ」 「はいはい」  
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