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 最近はずっと、心臓に悪い。手加減することなく言葉を繰り出して、私の心を見透かすように、瞳を覗き込んでくる。途方もない引力に惹かれて、感情を口に出してしまいそうだ。 「何考えてる?」 「なにって、」  それを聞きたいのは私の方だ。親指の腹で瞼の下をなぞられる。輪郭を確かめるような触れ合いとともに大和の顔が寄せられた。いつも通りの音のない部屋で、私の心臓の音だけが鳴り響いている。大和の息遣いが耳に触れると、目をそらしたくてたまらなくなる。 「なにって、なに、も……、こんなふうにされたら、大和のことしか、……考えられないよ」  悲鳴を上げている心臓を無視しきれなくて、狼狽えながらつぶやく。限界まで大和に近づかれて、私の体はすでにソファの上に寝そべっていた。体の上に跨られて、息を呑む。 「じゃあ、ずっと触ってていい?」 「な、にをいって」 「そうしたらよそ見しねえんだろ。俺だけ見ててよ。ひかり、言ってる意味わかってる?」  わからない。わからないから、目を回している。わかってしまうのも、おそろしい。  終わりは決まっている。私と大和が互いをどう思おうと、この生活は有限だ。そうでなければ、大和の未来に傷がついてしまうから。
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