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「晶」 「……う、ん」 「ソファで寝るなって言ったろ」  穏やかな声に揺さぶられる。底に沈んでいた意識が揺れて、次第にはっきりと聞こえてくる。起こそうとしているはずが、彼の手は労わるように優しく私の髪を撫でていた。 「晶、……お姉さん?」 「星く、……あ」  口に出した瞬間、弾かれるように瞼が開いた。  私を覗き込むようにして目の前にしゃがみ込んでいる男性――大和が、私と目が合ったことに気づいて薄く笑みを浮かべる。  彼は体が大きいから、私には十分すぎるほど大きなリビングのソファも彼の手足にはそこまで大きく見えない。 「あ、ってなに」 「あ、いや……、おはよう」  随分と長い夢を見ていたようだ。  夢の中で大和はこれが現実だと言っていたが、それが現実だったのは過去の私にとってで、今私が見たものは間違いなく過去の自分に引き起こされた記憶を振り返る夢だった。 「おはよ。で、なんで晶はここで寝てんの」  呆れた表情を作るのが上手だと思う。もちろん彼は売れっ子の俳優であるわけだから当然のことではあるのだが。  感心して呆然と見上げているうちに、ようやく自分の置かれた立場を思い出して、体を起こした。  家に帰ってきたのはおそらく二時間ほど前で、当所の俳優である岡田漣の地方巡業のマネジメントを終えたところだった。彼は相原に聞いていたとおり、若手の俳優らしく何事にも一生懸命で、だからこそ私はあんな過去を思い出してしまったのだろう。
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