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触れられると泣きたくなる。まっすぐに言葉を投げかけると、胸が苦しくなって仕方がない。全部大和が、私を大切にしてくれていると知っているからだ。
何も答えられずに唇を噛んだら、大和はそれをやめさせるように私の唇に噛みついて、至近距離で囁いた。
「俺のこと以外、何も考えんな」
熱っぽい言葉だった。彼は勝手に私の小指を掬い上げて彼のものと結び合わせる。
「約束」
「かって、に」
「騙されててよ。ひかり」
安心させるように笑みを浮かべて、私が頷くよりも先に私の体を抱き起す。大和は迷いなく寝室へと私を導いて、暗い部屋に私を下ろした。
「ひかり」
名前を呼ばれて、縋りつく。
この世界で、私の名前を呼んでくれる人は、ほんのわずかだ。その中で一番私の名前を丁寧に、大切に、何度も呼んでくれる人に抱きしめられて、どうしてか涙が流れた。
夜はあつくるしい。冷房なんて意味をなさない。耳元に名前を囁かれるたびに背筋が震える理由を、私はもう知っている。
愛なんて言う不自由な意識のせいで、私はずっと大和の手を離せずにいる。それがたまらなく苦しくて泣いたら、大和は眉を歪めて私の眦を舐めた。
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