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星の光は掴めない。
ベランダの先に広がる明けの明星を見上げ、手を伸ばすことをやめた。
賃貸契約の申し込みは滞りなく進み、おそらく近日中に返事が来る。特に問題はないだろうが、それをパスすることができたら私の新居は決まりだ。
それが決まったら、折を見て大和に離婚を申し出る。離婚届はすでに入手して必要項目を埋めており、あとは大和に手渡すだけだ。昨日、新居でそれを記入しながら何度も涙を拭ったことを思い出して苦笑してしまう。
最後までの少ない時間は、できるだけ楽しく過ごしたいと思っていた。けれどどうだろうか。
「……きつい、なあ」
近づけば近づくほど温かくて、その手に触れれば触れるほど離れがたくなる。欲張りになる自分が恐ろしい。
ベッドの上ですべてのことが終わって大和の熱い腕に優しく抱きしめられても、意識を途切れさせることなく眠ったふりをした。
しばらくして大和の寝息が聞こえ始めてから、ようやく寝室を抜け出して、ベランダに出る。
決意が揺らぎそうなときは、いつもここから星を見上げていた。
明るくて、決して星などなさそうな空にぼんやりと浮かぶ明星。それが私には、私のせいで輝きを曇らされている大和のように見える。
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