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彼は寝ぼけていても私のことばかりだ。困り果てて、「五時間くらい?」と適当な嘘を吐くと、彼は少し考え込んで息を吐いた。
「……次は我慢するんで、ちゃんと申告すること」
別に無理なんてしていない。彼が触れてくれるから、ただ受け入れていただけだ。何もつらい時間ではないし、ずっと私を大切に抱きしめている大和の方が負担が大きいだろう。それなのに、大和はちっともそうは思っていないような真剣な顔で私を覗き込んで言った。
「無理させた自覚があるんだ」
「……かなり?」
「はは、べつに、気にしなくていいよ」
――もう二度と起こらないことだから。
胸の内に淀む言葉をかき消して笑ったら、ますます強く抱きしめられた。
「気にするだろ。ちゃんと、大事にしたいんだよ」
仲良く楽しくお別れをするなんて、本当は無理だ。もうずっと前からわかっていたことを思い直して、泣きたくなるのを必死で堪えた。
大和は今目の前にあるものをいつも大切にできる人だ。それをよく知っている。だから私が彼の目の前にいる間、彼はいつだって全力で私を守ろうとする。
けれどそれではいけないから、私は彼の元を去ろうとしてる。
二つは相容れないから、きっとどこかで崩壊する。そしてその崩壊の足音は、私のすぐ後ろまで迫っていた。
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