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「わかった」
わかっていても、彼の願いの通りにはしない。ずるい私は嘘を避けた曖昧な表現で言葉を返したのに、大和は安堵の息を吐いた。
「ん、ならいい」
「本当、ずっとかっこいいんだから」
困ったな、ずっと好きで。もっと好きになってしまいそうで。ずっと、息を繋ぐたびに心が痛い。苦しむ私の隣で、大和は小さく笑っていた。
「うん、もっと言っていいよ」
「かっこいいって?」
「そう、たまに特別扱いして」
いつも特別だよ。ずっと私の心の真ん中にいるよ。何度も口にしそうになって、隠した。
――やっぱりずっと仲良しは、難しかったなあ。ごめんね、大和。たくさん傷つけてごめん。
ベッドから起き上がって顔を向けると、大和は私の胸の内の懺悔など知らず、可愛らしく首をかしげて私の答えを待っている。
「みんなのやまとくんに、恐れ多いなあ?」
茶化して返事を待たずに寝室を出る。後ろから大和が追いかけてくれることは知っていて、それでも素知らぬふりをして玄関を目指す。
「ひかり」
「大和のせいで遅刻しちゃう。うわ! こんな時間だ! もういくね」
呼びかけられても一切振り向かずに玄関にたどり着いた。
腕時計を見てわざとらしく驚き、パンプスに足を入れてドアノブを掴む。その瞬間も名前を呼ばれていることに気付いていて、あえて聞こえなかったふりをして飛び出した。
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