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「なんか、ちょっとその」 「うん?」 「結構ガチめに好意を持たれていましてー……」 「ああ〜……」  応えるつもりのない好意に悩んでいるということだ。意外な悩みに驚きながらも顔に出さず頷く。  岡田漣は柔らかそうに見えて、一本芯の通った真面目な俳優だ。好意を持たれてもそれとなくかわしてしまいそうだが、同業となると悩ましい部分があるらしい。 「すごい、俺なりに丁寧に断ったのね? でもなんか納得してもらえず、この現場同じだから、一緒に昼とか食いたいってお願いされてしまい」 「わあ、すごいアプローチだ」 「彼女いるんでって断った、んですが」  少し前に聞いた話では、彼には交際相手がいないはずだ。少し驚いたことを隠せなかった。彼はバックミラー越しに私の反応を見て、顔の前で大きく手を振った。 「いや、いない! 全然できてない! マジで」 「はは。うん、わかった。断る口実に嘘ついたんだ」  好意を捨ててもらうために使う常套手段だ。あまり嘘を吐かなさそうな彼がその手を使うくらいだから、相手もかなり本気ということだろう。  代打が突然決まったせいで、今日の現場に誰がいるのか確認を怠ってしまった。これから撮影予定の映画の台詞合わせと聞いているが、この気まずいタイミングではなかなかつらいものがあるだろう。
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