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この話を聞かせたのはおそらく相原だろう。そしてこの話の元になっているのは私と星悠翔だ。けれどこれはほんのわずかな事実を脚色したほとんど嘘の過去だ。
相原の目には、私と星悠翔は特別な関係に見えていたのだろうか。
『花宮ぁ、あんま肩入れして好かれたりすんなよぉ?』
星悠翔がブレークしかけていたある日、相原に声をかけられたことがあった。あのときはそんなことがあるはずもないと笑い飛ばしたが、そのときすでに相原の目には私と彼が特別な関係になろうとしているように見えたのかもしれない。
『花宮さん、この仕事頑張ったらデートしてよ』
星悠翔はいつも悪戯を思いついた子どものように笑っていた。その姿がどことなく岡田漣に似ているから、相原は念のため釘を刺したのかもしれない。
実際には、星悠翔とデートをしたことなどないし、手を握られたことも、抱きしめられたことも、口付けられたこともない。
今更ながら、それを知るのはこの世にただ一人私だけなのだということに気づいた。
「ひかりさん? ごめん、嫌なこと聞いた?」
「あ、ううん。なんか覚えのない話だなと思ってびっくりしちゃっただけ」
「そう? それならいいんだけど。嫌なことあったら言ってね。俺もひかりさんのこと助けるし。お互い様ってことで!」
「あはは、何を助けてもらおうかなあ?」
「俺にできる範囲でね!?」
優しい言葉に頷いて、頭を切り替える。過去をかき消してミラーを覗き込んだら、星悠翔によく似た愛嬌のある岡田が楽しそうに外の様子を眺めていた。
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