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* * *  現場に着いてすぐに理解したのは、相原がおそらく彼の意思で私をこの現場に配置したわけではないだろうということだ。故に彼は岡田漣の悩みを私に共有することもなかった。  さらに言えば、今日のこの現場への配置を命じた人も、私の事情を全く知らなかったのだろう。 「あ、大和さんきた」  わざわざ私の横に椅子を持ってきて座ったはずの岡田漣が立ち上がり、浮ついた声を上げた。  職種は違えど、同じ業界で仕事をしていれば顔を合わせることもあるはずだ。しかしおそらく今この瞬間までは、相原がうまく仕事を捌いてくれていたおかげで、私はほとんど仕事の場で大和と顔を合わせることがなかった。  岡田連の声に反応して、大和がこちらを振り返る。彼は岡田漣を見て軽く手を挙げ、一瞬表情を変えることなく私を見つめた。  初対面には不自然なほど顔を見つめられて、慌てて頭を下げる。 「ひかりさん、大和さんとこ、挨拶行っていい?」  ――これは困ったことになった。  内心焦っていても、それを顔に出すわけにはいかない。少し前に彼と、極力側を離れない約束をしたばかりだ。  岡田漣の顔にはわかりやすく『着いてきて欲しい』と文字が浮かんでいる。
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