10

8/18
前へ
/317ページ
次へ
 どうやら岡田漣に好意を寄せている相手とは、二年ほど前に大手アイドルグループを卒業した八田こころという女性タレントらしい。名前を聞いて、彼が萎縮した理由がわかった。  畑は違っても彼女の方が数段芸歴は上で、彼女を気に入っている監督も多く、テレビや映画への露出も多い。これからますます売り出していかなければならない彼にとってはこの上なく断りづらい相手だろう。  今もちらちらと岡田漣の動向を伺っている。 「着いて行った方がいい?」  そうして欲しいだろうことをわかっていながら尋ねると、彼の丸い目が可愛らしく潤んだ。 「おねがい」  仕事をしにきているということを何度も思い直して、瞼の裏に映る今朝の大和の姿をかき消している。  私が答えを引き延ばしていると、岡田が可愛らしく私のスーツの裾を掴んだ。 「いこ? ひかりさんのこと紹介したいし」  紹介するも何も、その相手は私の夫だ。などと言える勇気があったらずっと前に打ち明けている。ここまで黙り込んでいた自分が悪いことを悟って静かに頷いた。  彼も八田こころの視線を感じて居心地が悪いのだろう。周囲に聞こえるような声量で言うから、少し視線が痛い。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1118人が本棚に入れています
本棚に追加