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彼はなおも私の裾から手を離さず、まっすぐに大和へと歩みを進めている。その先にちらりと目を向けて、逃げ出したくなるのを堪えた。
星大和はそのマネージャーである溝口と何かを会話している。溝口は私たちがこちらに近づいてくるのを見ると一瞬目を見張って大和に何かを耳打ちした。
もう二度と会わないはずだった溝口とは顔を合わせるのがつらくて、無意識に俯きそうになる。
全身から変な汗が噴き出ていないか不安だ。
「大和さん、お久しぶりっす」
この場面でただ一人だけ嬉々として声を上げた岡田に、大和は何の躊躇いもなく振り返った。
「久しぶり。元気そうじゃん」
星大和は柔らかな笑みを浮かべて言葉を返し、岡田の顔を見上げている。その髪には寝癖なんてないし、服装も黒をベースにした綺麗めのファッションで纏められていた。洗練されていて、芸能人らしい格好だと思う。濃いまつ毛に形どられた瞳は誰もが目を奪われるほど印象的で、たとえようのないミステリアスさを感じさせる。
緩慢に目を伏せるさまは気だるげで、朝よりも夜が似合う。夜に浮かぶ惑星のような人だ。
まるで私が見ている人とは別人に思える。
かき消したはずの朝の様子が浮かんで、瞬きと共にもう一度消していく。
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