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しばらく沈黙が降りる。その束の間の後、彼は赤信号でブレーキペダルを踏み込み、何かを言おうとして唇を薄く開いた。
もう、その先の言葉を聞く余裕はなかった。
『教えてくださって感謝します。ずっと、これからも彼をよろしくお願いします』
『なにを、』
『ここまでで大丈夫です。ありがとうございました』
雨が止んだことを確認して、そのまま車から飛び出した。ドアを閉める瞬間、彼が何かを叫んでいるのが聞こえたが、知らぬふりをして家まで走った。そうでなければ、みっともなく涙が流れていることに気づかれてしまいそうだったから。
記憶が朧げで忘れたふりをしていたが、あの別れはあまりにも不安を煽るものだった。
ますます気まずくなる私を差し置いて、岡田漣だけが軽快なトークを繰り広げている。星大和が憧れの存在だという言葉は嘘ではないのだろう。
語る彼の瞳は輝いていて、嫌に眩しかった。
「漣」
「はい?」
しばらく黙って岡田漣のマシンガントークに付き合っていた大和が不意に声を上げた。その瞬間岡田の声が止まって、彼は子犬のような顔で大和を見つめている。
大和はその目を見つめてからちらりと私の顔を見た。
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