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◇ ◇ ◇  星の光を掴むことはできない。それが、掴むために存在しているものではないからだ。  何気なく伸ばしていた手を下ろして浅く息を吐く。  都会の空は明るく濁っている。  それは、この街が夜にも人工的な光を放っているせいだ。まるでこの街自体が星になろうとしているみたいだ、なんて、私に言ったのは誰だっただろう。  この街の闇は藍色や黒のようなはっきりとした色合いではなく、どこまでも交じり合ったグレーのような色で星の光はどこにも見えない。 「あ、……大変」  重く濁っていた頭を覚醒させるためだけにベランダに出てきたはずが、思いのほか長居をしてしまったようだ。腕時計の短針は午前三時に差し掛かろうとしている。  気だるい体を叱咤するように両腿を叩いて立ち上がり、ゆっくりとベランダを出た。  整然としたリビングには静寂だけが存在している。  すくすくと育った観葉植物の鉢植えの横には、缶ビールが置かれていた。 「また飲んでるし」  少し前、そろそろ次の仕事のために減量をしなければならないと言っていたのはどこの誰だっただろうか。呆れつつ、缶ビールを持ち上げてキッチンのごみ箱に入れた。  男は缶ビールを開けると、余ったビールを観葉植物の土に流し入れるというおかしな癖を持っている。  ビールのたんぱく質が観葉植物の養分になるなんていう雑学を、彼はいったい誰に教わったのだろう。  彼のそういう些末な人間らしさなど、知らずにいればよかったのに。  美しい秘密は、永遠に私の心を掴んで放さない。
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