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我が家にあるシャンプーの香りとはまた違うものだから、やはり彼はジム帰りで間違いなさそうだ。ジムから帰ってきて、軽い食事とともにたしなむビールをこよなく愛していることを知っている。
そのはずが、彼はあっさりと私をベッドの上に置いて、私の体をシーツと布団の間に引き込んだ。
「じゃあ寝るか」
「ご飯は!?」
「食った」
「うそ」
「可愛く騙されろよ」
まるで私が体の一部かのようにぴったりと彼の胸に背中を合わせられて、後ろから抱きしめるみたいにお腹に腕を回された。
「やまと、」
「眠くなってきた」
耳元に低くかすれた声で囁かれると、どうにも全身から力が抜けてしまう。大和の体温や息遣いを感じているだけで意識が遠くなるようになったのは、いったいいつからだろう。
最後の抵抗として大和の手の甲を抓ったら、彼は空気を吐くように小さく笑った。
「なに、その攻撃」
「わたし、ねむくないよ」
「ふぅん」
「ご飯、作りにいく」
「無理。もう寝るって決めた」
どうせ私のためにそうしているくせに。
胸の内に浮かぶ言葉をかき消しているうちに、悪戯する指先を掴まれる。彼の手は、私の手よりもずっと熱い。
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