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「花宮晶さんですか?」
「え? そうです、が」
まさか彼は、私が彼の今後の明るい未来について思いを馳せているとは微塵も思っていないだろう。
固い面持ちで頭を下げられ、遠くまで飛んでいた思考が戻ってくる。
「すみません、さっき岡田さんが話しているのが聞こえて、もしかしてそうかなと思って追いかけてきてしまいました」
彼の様子が見てみたいと思っていたのは私の方だ。しかし彼も私を認識しているらしい。なぜとは思わなかった。
水野愛子とは、それほど深い仲を築いているつもりだ。
「もしかして、うちのタレントのことですか」
「……場所を変えてもいいですか。おれの出番がくるまで、ほんの少し時間があるので」
またしても低姿勢で頭を下げられ、慌てて顔を上げさせた。この人が、水野愛子の心を射止めた人だ。想像していた以上に真面目そうな人で、すでに肩から力が抜けていた。
安堵する私とは対照的に彼は心なしか緊張の面持ちを隠せず、さらに奥まった廊下で足を止める。
「こんなところまで連れ出してすみません」
「いえ、大丈夫です。私もお会いしたいと思っていたので」
「それは……恐れ多いですね」
心なしか、少し知り合ったばかりの頃の水野愛子に似ている。
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