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 ちらりと私の瞳を見つめた彼は、私が微笑んでいるのを見ると少しだけ恥ずかしそうに頭を掻いて、緊張を収めようと深く息を吸った。 「……交際を認めてくださったと、伺いました」  まるで、結婚を前提として付き合ってきた恋人の家にきた若者のようだ。何も言わずに静かに頷くと、ますます強く瞳を燃やしたように見える。  頭を下げなくていいと言っているのに、彼はまたしても深々と腰を折った。 「ありがとうございます。ご挨拶に伺えず、すみません。金城謙吾と申します。花宮さんのことは水野さんからよく聞き知っていて、いつか感謝の気持ちをお伝えしたいと思っていたんです。……水野さんのことは、お会いした当初から素敵な方だと思っていて」 「ふふ、待ってください。そんな、全部話そうとしなくて大丈夫ですよ」 「……無理をおして、認めてくださったと聞いています。おれが一方的に好意を持って、水野さんを振り回していることを、知って欲しくて」  顔を赤くしながらもまっすぐに言葉を打ち込んでくる。きっと口下手な人なのだろう。それでも水野愛子が好きで、自分を抑えられなかったのだ。 「わかります。愛子ちゃん、すごく魅力的な人ですもんね」 「はい。間違いなくそうだと思います。……交際を許していただいたからには、おれは当然結婚も視野に入れています」
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