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若干汗ばみながら稽古場へと戻ると、すでにほとんどの参加者が揃っているなかで、岡田が慌てて私の目の前に現れた。
「ひかりさん、どこ行ってたの? いなくなるからめっちゃ心配した!」
「あ、ごめん! コーヒーの差し入れしようと思ったんだけど、うん、ちょっと道に迷っちゃって」
「ええ? ひかりさんってドジっ子属性あり?」
「いやいや、ないない。たまたまね。それで金城さんに案内してもらったところ」
全くもって事実とは異なるが、私が説明すると金城はすぐにその場の流れに乗ってくれた。
「いや、おれもちょっと迷いかけてたとこで、二人でようやく戻ってこられました。すみません、マネージャーさんお借りしてしまって」
「いやいや、全然大丈夫っす! ただちょっと姿が見えなくて心配しただけです」
誰も彼も役者なだけあって、何事にも順応力が高い。岡田にさりげなく腕を掴まれて、金城がちらりとそれを見遣ったのが見えた。
水野愛子から私の話をよく聞いているということは、私が結婚していることも知っているだろう。以前茶化された時、今度彼氏に言っちゃおうと言われていたことを急に思い出した。
しかし金城が不思議そうに目を丸くしていたのは一瞬で、すぐに目の前に缶コーヒーが差し出される。
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