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「可愛く騙されてくれてどうも」
ベッドの中で聞く大和の声は、いつも小さい。まるで、世界の中で私だけにしか聞かせるつもりがないみたいだ。仕返しのように大和の手が私の手の輪郭をなぞる。それが私には、存在を確かめる行為のように思えてならない。
「……大和は詐欺師だからね」
「はは、うん。間違いない。ひかりはすぐ騙さてくれるし」
全部私のための嘘だと知っていたら、騙されないように必死になっていたと思うよ、なんて、息苦しい本音も寝室の暗闇の中に隠してしまった。
「大和はもっと優しくした方がいいね」
「ひかりに?」
「みんなに」
「えー。俺、晶にしか優しくできないわ」
「私に優しかったことあった?」
心の中に浮かんでいる言葉とは真逆の悪態をついて振り返ると、大和は特に気にすることもなく笑っていた。眠いというのはやっぱり嘘だろう。
「なかった? じゃあもっと優しくしねえと」
「いや、なんか怖いからいい」
「なにそれ。こんなに愛でてんのに」
鼻を私の首筋に擦らせて、ティシャツの丸襟から覗く肌に戯れに口付けられる。怪しい動きに慌てて手を握ったら、恋人のようにつなぎ合わされてぎょっとしてしまった。
「っ、ちょ、っと」
「ん?」
「なにしようとしてるの」
「え? 愛でようかと思って」
「寝るって言ったじゃん」
「はは、じゃあ寝よ」
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