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「漣くん!」
焦って声をかけたせいで、思いの外声量が大きい。またしても視線が突き刺さっている気がして慌てて彼の目の前に立ち、腕を掴んだ。
「お昼、ちょっとお話いいかな? 楽屋にお弁当持って行くから」
「え、あ、……うん、わかった」
少しの戸惑いと乞うような眼差し。私がぎこちなく微笑みかけると、岡田はわかりやすく口元を緩めた。彼の後ろに振り乱された尻尾があるように見えるのは気のせいではないだろう。
これがすべて演技によってなされているものだと思うと舌を巻いてしまう。
「あー、八田さん、すみません。昼ちょっと仕事の話しなきゃなんで……、また今度でいいっすか?」
岡田が申し訳なさそうに私の後ろへと視線をやっているのを見て、同じように後ろを振り返る。
その場に立つ女性は取り繕った笑みを浮かべていた。
「じゃあ今度、絶対いきましょうね」
「お誘いありがとうございます! じゃあいこ、ひかりさん」
* * *
「やー、焦った。ひかりさん、マジでありがとう」
楽屋に入った途端、岡田は椅子に倒れ込んでテーブルに突っ伏した。よほど身の危険を感じていたらしい。
「んー、たしかにちょっと好かれすぎかもねえ」
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