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「っ、きゃ……っ!?」  強い力に腕を引かれて、全身のバランスを崩した。いつもより不自由なスカートタイプのスーツのせいで、ろくな抵抗もできずに体を引き込まれ、脇に抱えていたペットボトルが一本音を立てて床に転がってしまう。  そのペットボトルに手を伸ばし――瞬く間もなく、物悲しい廊下の景色が消える。  視界いっぱいに楽屋の扉とおぼしきクリーム色の壁が映って、間髪をいれずに誰かの手が音を立てて扉の鍵を閉めた。  人攫いのような手つきに息が止まりかけて、今にも引き攣りそうな呼吸を繋ぐ。その途端、鼻腔に触れる匂いのせいで、全身から力が抜けた。 「びっくり、した」  毎日香っている匂いだ。後ろから抱き込まれていてもわかるほど、私の全身に染み付いている。  肩口に顎を乗せられ、力なくその場所に座り込んだ。 「ちょ、っと……なにしてるの」  廊下を歩いていたら、突然楽屋の中に引き込まれたらしい。予想もしていない大和の行動に、朝の気まずさなどすっかり忘れていた。  顔を上げて後ろを振り返ると、お腹に回っていた手がますます強く私を抱きしめる。縋り付くような体勢に一瞬ここがどんな場所であるかを忘れかけて、すぐに思い出した。 「やまと、ちょっと、仕事中だって、ば」
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