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 腹に響くような低音が耳元に囁かれる。咎めるような言葉なのに、寂しそうに聞こえる理由がわからない。言葉が頭の中から抜け落ちて、何も言えずにただ耳を傾けている。  私が何も反応できないでいると、大和は私の顔を覗き込んで言った。 「べたべた触られてて、マジでむかつく」  ここにいるのは、ほんの少し前まで涼しい顔で私の存在を気にするそぶりもなかった彼と同一人物なのだろうか。  信じ難いほど子どものように拗ねた声を出されて、思考が絡まってしまう。 「むか、むかつかれても……べたべた触られてない、よ」  大切な宝物を取られないように必死になっているみたいだ。そんなはずがないのに、そういうふうに見えて仕方がない。  胸が痺れて息が苦しい。大和のそばにいる間、いつもそうだ。  確かに岡田に関しては彼の人間関係の問題があって確かにいつもより近くに控えるようにはしていた。しかしそれを大和に伝えるわけにもいかない。  何も言えずに口をつぐむと、大和はますます顔を顰めた。 「俺はさわれねえのに」 「今この体勢でいう?」  誰よりも私に触れているのに、大和は納得ができないらしい。ますます強く抱きしめられて、動揺しつつ肩に乗っている頭を撫でた。
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