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少しでも手を剥がそうとすると、その手を取って繋がれて、ますます距離を詰められた。
「こ、れ……、お仕事、だよ」
「仕事でもひかりが他のやつに優しくしてんの見るとマジで嫉妬する」
「し、っと、するん、だ」
「昨日ひかりが俺と何してたか全員に教えて回りたいくらいには」
悩ましげな声でさらっと恐ろしいことを言う。
彼の手が下腹部を丸くなぞる。その手つきに思わずぎょっとして、慌てて声を上げた。
「なにいってるの、怖すぎるんだけど」
「……それはまあ冗談」
「間が怖い……」
「ああいうのがタイプなわけ?」
まるでこの世の誰にも聞かせたくないことを問うような小さな声だった。それが大和の口から出たとは思えなくて、言葉が浮かばなくなる。
何も言えずにいると、またしてもため息が耳に触れた。
美しい別れなんてない。
ふいに思い出して、ますます答えを失ってしまった。ここで私の好きな人はこの世にただ一人だけなのだと伝えられたらいいのに。
伝える術もない。資格さえない。
「金城に何言われた? 漣はひかりに何耳打ちしてたの」
「そ、れは」
全部見ていたのか。絶句して、何もかも言葉にならない。普通の仕事をしているだけだ。マネジメントを行っているだけ。それを説明すればいいのに、都合のいい勘違いのせいで、声にならなかった。
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