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最後になるのなら、もっと自分から彼に触れてみればよかった。いや、少しも触れ合わないほうがよかった。傷つけずに終わりたかった。むしろ傷をつけたい。私を忘れないで欲しい。綺麗に忘れて、幸せになって欲しい。
いつも矛盾した後悔ばかりが残る。
相原からはすぐに連絡が来た。手配できる別の仕事の選択肢は多くなく、あまり勧めたくはないが地方出張の業務があると言われてすぐに承諾した。
地方出張は本日からで、私が戻る頃には大和が出張中だ。
それは私たちの終わりには、あまりにもちょうどいいタイミングだった。全ての準備は整っていて、あとは私が大和の前から消えるだけで済む。
「ひかり、だめ?」
拒絶してほしくないことが容易に察せてしまうような声。その声に囁かれると、すべてを許してしまいたくなるからずるい。
強烈な引力で目がそらせない。
拒絶するのがこんなに難しいと知っていたら、私は何よりも先にもう二度と出会わない方法を探しただろう。
美しい奇跡、愚かしい感情。壊して粉々にして、なくなってしまえばいいと願うのに、同時に大切に抱きしめていたいとも思う。
感情があまりにも複雑で、瞬きのたびに違う思いがわいてくる。
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