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泣きたいのは、自分が不甲斐ないからだ。この期に及んであなたと離れたくないからだ。あなたを傷つけることばかりをしているとわかっているからだ。
「ちがうの、大和、ちがう」
「じゃあ誰に泣かされてんの。俺のせいでなんか嫌なこと言われた?」
問いかける彼はどうしようもなく悲しそうな目をしている。大和はいつもそうだった。自分の心の傷を無視して私のことばかりを守ろうとする。
「ひかり、言ってよ。それなら絶対に、全部俺がどうにかする」
自分の苦しみは私には言ってくれないくせに。私のことを何よりも大切にしようとする。
でもやっぱり、もうそれじゃあだめだ。嘘ばっかりの大和。私のためにいつも無理をする大和。
全部好きだ。愛おしいと思う。美しく、誰にも触れさせたくない輝かしい過去。
「ひかり?」
優しく名前を呼ばれて、答えずに彼の頬に触れた。
彼の目が丸く見開かれる。本当に驚いているみたいだ。私から大和にキスをしたことはあっただろうか。なかったのかもしれない。
大和は演技が上手だ。だから私への態度も全部演じているだけだ。星悠翔の喪失でばらばらに砕けた私の心を繋ぎ止めるために、こうして私のことが心底愛おしいみたいに振る舞っている。
――そう思わないと離れられないから、私は大和の気持ちなんて少しも知らなくて、大和のことなんて愛してもいない人のふりを続けている。
でも、本当は、大和がどんな思いで私を見つめてくれているのかなんて、もうずっと前からわかっていた。
「大和、きす、したい」
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