2

6/22

826人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「痛え」 「寝るって言った」 「はは、うん。でも思ったより俺の嫁が元気そうだし、構ってもらおうかと思って」  大和がこうして寝室でも会話を続けようとするのは珍しい。そして、そういう日はいつも、私に伝えたいことがある。 「ひかり、構ってくれねえの?」  これまでの生活の中で、大和にどれほどの迷惑をかけてきているか忘れたわけではない。  何度もこのベッドの上で抱きしめられた。まさか大和がその記憶を忘れているはずもない。思い出すだけで肺の奥から痛みが込み上げてきそうなのに、どうしてかすべてから隠すように抱きしめなおされると、全身から力が抜けてしまった。  大和は魔法使いみたいだと思う。 「大和」  美しい名を口遊みながら後ろを振り返る。 「ん?」  やっぱり少しも眠くはなさそうだ。暗闇の中でも大和の瞳の光が見える。彼はまっすぐに私を見下ろして首をかしげていた。 「今回担当した男の子がね、大和のこと、憧れだって話してたよ」 「さすが俺じゃん」 「あはは、本当だ」  珍しいことが起こったかのように話しているが、星大和に憧れる俳優がいるのはそれほど珍しいことでもない。今年二十八になった大和はブレークこそこの五年以内のことではあるが、幼い頃から劇団に所属しており、演技派と呼ばれるにふさわしい役者なのだ。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

826人が本棚に入れています
本棚に追加