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「痛え」
「寝るって言った」
「はは、うん。でも思ったより俺の嫁が元気そうだし、構ってもらおうかと思って」
大和がこうして寝室でも会話を続けようとするのは珍しい。そして、そういう日はいつも、私に伝えたいことがある。
「ひかり、構ってくれねえの?」
これまでの生活の中で、大和にどれほどの迷惑をかけてきているか忘れたわけではない。
何度もこのベッドの上で抱きしめられた。まさか大和がその記憶を忘れているはずもない。思い出すだけで肺の奥から痛みが込み上げてきそうなのに、どうしてかすべてから隠すように抱きしめなおされると、全身から力が抜けてしまった。
大和は魔法使いみたいだと思う。
「大和」
美しい名を口遊みながら後ろを振り返る。
「ん?」
やっぱり少しも眠くはなさそうだ。暗闇の中でも大和の瞳の光が見える。彼はまっすぐに私を見下ろして首をかしげていた。
「今回担当した男の子がね、大和のこと、憧れだって話してたよ」
「さすが俺じゃん」
「あはは、本当だ」
珍しいことが起こったかのように話しているが、星大和に憧れる俳優がいるのはそれほど珍しいことでもない。今年二十八になった大和はブレークこそこの五年以内のことではあるが、幼い頃から劇団に所属しており、演技派と呼ばれるにふさわしい役者なのだ。
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