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「あ、ひかり」
「うん?」
ドアノブを掴もうとすると、後ろから声がかけられた。声がする方を振り返って、少し前にいた位置よりも少し遠くに立つ大和の姿を見据える。
彼はこの部屋に引き込まれた時に私が落としたペットボトルを手にとってテーブルの上に置き、元々テーブルに置かれていたペットボトルを掴み直した。
「あ、ごめん。落としたの忘れてた」
「いや? 俺のせいだし」
床に落としていない方のペットボトルのキャップを捻って開封してからまた緩く締め直し、私に手渡してくる。
「これ飲んで」
「別に汚れてないのに」
「やまとくんがフタを開けたプレミアム仕様のお茶、飲みたいだろ」
「ふふ。なにそれ。仕方ないなあ」
いつも私がビンや缶のフタを開けるのに苦慮しているところを見ているからわざわざこうしてくれている。それを知っていて、あえて何も触れずに受け取った。
「そういえば、ひかり」
「うん?」
「命日、星見に行こうって言ってただろ。いいとこあるらしいからそこ行きたい。次の日も休み取ってるし、一泊しようと思ってんだけど、それでいい?」
大切な予定を入れる前はいつだってちゃんとアポイントを取ろうとする。
今回はそれが少し憎らしくて、口元が引き攣りそうになるのをどうにか誤魔化した。
「あ、うん。……ちょっと予定、確認するね」
「おー。前向きでよろしく」
「ふふ、わかった」
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