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 溝口と会話をしたその日からもう一年以上の月日が流れている。それでもあの日の出来事が耳の裏に張り付いてしまったかのように、鮮明に以前の彼の言葉が脳裏を過った。 「申し訳ありません。……返す言葉もないです」  深々と頭を下げたら、瞼にたまっていた涙がぽたりと地面に落ちた。それをどうしても見られたくなくて、顔を上げることができない。  頭を下げ続ける私に、溝口はわかりやすくため息を吐いた。 「別れるというのはただのでまかせだったんですか」  違う、とは決して言えなかった。これからそうするつもりなのだとも、そもそもこの部屋に引き込んだのは大和なのだとも何も言えずに、ただ唇を噛む。  大切な時に、いつも言葉が出ない。苦しくてもう一度涙がこぼれてしまいそうで、必死に堪えている。 「できないことをやると言うのはやめていただきたいです。こちらにも準備というものがありますから。大和が今日、早くに帰りたいと言い出したのもあなたのせいですか?」  まるで呪文のように聞こえる。心なしか息が苦しくて、スーツの上から胸を押さえた。耳鳴りがしてうるさい。動悸が止まらない。 「そうやって苦しんでいたら、大和が助けてくれると思ってませんか」 「そ、んな」 「思っていないなら、精神病のフリを今すぐやめてください」
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