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何度も躊躇って、お守りのようにポケットに突っ込んでいた薬を手に取った。もう半年近く飲んでいなかった錠剤を見下ろして、止まらない涙を拭う。
結局、手のひらの錠剤を飲み込んで、ペットボトルのお茶で飲み干した。
「大丈夫、……だいじょう、ぶ」
全然平気だ。溝口の言葉の通り、私は精神を患っているフリをしているだけだ。
眠れない夜があっても、薬は飲まないと決めている。定期検診は、あまりよくないことを言われると知っているから、調子が悪い時ほどいかない。
いかなければ私は健常で、大和を心配させることもない。
『一度こういった症状が出ると、強いストレスを受けた時にまた同じ症状が出やすくなりますから、少しでも苦しく感じたら、いつでもお薬を飲んで、受診してくださいね』
だから、私は平気でいなければならない。どうにか過呼吸をやりこめて、地べたに転がった。
溝口の言葉はいつも正しい。だから苦しい。以前も、顔を合わせてから一ヶ月は彼が夢に出て、ろくに眠れなくなったせいで大和の目を欺くのが本当に大変だった。
「でももう、ダメでも会わないから、いいんだ」
円満な終わりを諦めたら、私の体のことなんてどうでもよくなった。
大和さえよければそれでいい。私なんてもともと終わるはずのものだった。だからどんなに苦しくてもいい。
最後くらい、大和を幸せにするために嘘をつきたい。
瞼の裏に、大和の嬉しそうな笑みが浮かんでかき消した。
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