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「花宮さん、送ってくださってありがとうございました〜!」
「いえいえ、じゃあまた明日も朝早いから、早く寝てね」
相原が受け取っているタレントを家まで送り届け、姿が見えなくなったところで運転席のシートにもたれかかる。
時刻は午前二時。周囲は薄暗くて、人影もない。ほとんどの人間が寝静まっているだろうこの時間にようやく仕事が終わった。
全身がくたくたで、もはや指一本さえ動かしたくない気分だ。
岡田漣の現場から直行した出張先は映画の海外撮影で、私自身も久々の出国になった。本来は別の人間が向かうはずだったその場に私が出る代わりに、本来海外出張を予定していたマネージャーを岡田のマネジメントに替えてくれたのだ。
感傷に浸る間も無く、時差のある現場へと飛ぶことになり、大和へは日本を発つ寸前に連絡した。
『ごめん、二週間フランス出張になった。しばらく連絡難しそう』
彼へメッセージを送りつけた手で、携帯の電源を切ってスーツケースの中に放り込む。
そっけないメッセージに大和がどんな言葉を返しているのか、日本に帰国する今日この日まで一度も見ることがなかった。
見てしまったら、決意が揺らいでしまいそうだから。
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